むかしむかし、あるところに、アヒルのおかあさんがすんでいました。
あたたかい春の日、たまごを大事にあたためていると――
「ピヨピヨ! ピヨピヨ!」
たまごから、かわいいアヒルの赤ちゃんたちが、つぎつぎに生まれてきました。
ところが、さいごに生まれた子だけ、なんだかようすがちがいます。
体はほかの子よりも大きくて、羽はふわふわじゃなく、うすいグレー色をしていました。
「まあ……この子は少しへんね」
それでもおかあさんは、どの子も同じように大切に育てました。
ところが、まわりのアヒルたちはちがいました。
「なにあれ!」「あの子、へんな顔~!」
兄弟たちにもからかわれ、まいにちいじわるをされるようになりました。
ごはんを食べようとすると、つつかれたり、あそぼうとしてもはじかれたり……。
「どうしてぼくだけ、こんなににくまれるんだろう……」
とうとうアヒルの子は、ある日そっと、家をとびだしました。
アヒルの子は、森の中をさまよい、雨にぬれながら、ひとりぼっちで旅をつづけました。
森の池では、野生のカモたちに出会いました。
「なんだおまえ? 変な顔だな」
すこしだけ一緒にいてくれましたが、まもなくハンターがやってきて、池は大さわぎ。
犬たちが走りまわる中、アヒルの子の前にも一匹がやってきました。
でも――なぜか、その犬は何もせずに通りすぎていきました。
「たすかった……」
その後、小さな家にたどりつきました。中からあたたかい光がもれています。
そこに住んでいたのは、ひとりぐらしのおばあさんと、ねこと、めんどり。
おばあさんはやさしくむかえてくれて、「ここにいてもいいよ」と言ってくれました。
でも――ねこは「にゃー、泳ぐことしかできないなんて!」、
めんどりは「卵も産めないくせに」と、なにかと文句を言ってきます。
アヒルの子はだまってがまんしていましたが、ある日、空を見つめてつぶやきました。
「青い空を飛んでみたいな……」
その言葉に、めんどりは怒り、ねこもそっぽを向いてしまいました。
「ここも、ぼくの居場所じゃないんだ……」
アヒルの子はまた歩き出しました。雪がふり、風がふき、寒さにふるえながら――
ながい冬を、ひとりぼっちでこえたのです。
やがて春がやってきました。
池の氷はとけ、草がのび、花がさいて、世界はあたたかくなりました。
アヒルの子は池に行って、そっと水にうつる自分のすがたを見て……びっくりしました。
「……えっ!? これ、ぼく!?」
そこには、かつてのみにくかった姿ではなく、白くて、つやつやとした、美しい鳥のすがたがありました。
すると、近くにいた白鳥たちがやってきて言いました。
「おや、あなたはわたしたちの仲間ね。いっしょに泳ぎましょう」
アヒルの子はうれしくて、うれしくて、涙が出そうでした。
自分をうけいれてくれる仲間が、やっと見つかったのです。
アヒルの子――いいえ、白鳥の子どもだったその子は、
広い池のまんなかで、すっと羽をひろげました。
まわりには、自分と同じ、美しい白鳥たちがいます。
もう、だれからも「みにくい」なんて言われません。
「いまのぼくは……ほんとうのぼくだ」
そう思いながら、アヒルの子は――
りっぱな白鳥として、ゆうゆうと泳ぎはじめました。
🕊おわりに
『みにくいアヒルの子』は、
見た目やちがいだけで人を判断しないこと、
そして、自分らしく育つことの美しさを伝えてくれる名作です。
まわりとちがうことに悩む時期もあるけれど、
それは、あなたがあなたらしく大きく育つ途中かもしれません。
どうかこのお話が、親子で「違い」や「成長」の素晴らしさを話し合うきっかけになりますように。
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